気づきは“意味ある体験”に変えなければ意味がない

〜ファスト&スローから読み解く、行動につながるコーチングの本質〜
コーチングにおいて「気づき」が重要だと言われますが、実際にその気づきが行動に結びつくとは限りません。
「気づいたけど、結局動けなかった」「気づいても、その後どうしていいかわからない」ということはよくありますよね。
では、どうすればその気づきが行動に結びつき、結果的に変化を生むのでしょうか?
今回は、気づきを行動につなげるための本質に迫り、ダニエル・カーネマンの著書『ファスト&スロー』を参考にしながら、コーチングにおける“気づきの扱い方”について考えてみます。
1. 「気づき」が行動につながらない違和感
コーチングでは、クライアントに対して気づきを与えることがよくあります。
しかし、その気づきがすぐに行動に結びつくわけではありません。
実際には、「ああ、そうか!」と気づいても、すぐにそれを実行に移せるわけではなく、思考が邪魔してしまうことが多いのです。
例えば、クライアントに対して「〇〇をやってみましょう」と言ったときに、彼らが口では「わかりました」と言うけれど、実際にはその後行動に移さないということはよくあります。
その理由は、気づきが**“納得”のレベルまで落ちていないからです。
納得するためには、「体験」**が必要で、気づきを実際の行動に結びつけるにはまず一歩を踏み出さなければなりません。
2. 現場では自然に「変える」ことがある
たとえば、現場作業中に「この手順だとうまくいかないな」と感じたとき、私たちは自然と手順を変えますよね。
この瞬間、私たちは理屈ではなく、直感的に「こうした方がいい」という感覚で行動します。
このとき、頭で考えなくても体が動いているのです。
これは、“納得”ではなく、実感からくる行動です。
つまり、納得してから動くのではなく、動いた後に「これでよかったんだ」と納得するという流れです。
3. 『ファスト&スロー』から見る2つのシステム
ダニエル・カーネマンの『ファスト&スロー』では、人間の思考を2つのシステムに分けて解説しています。
- システム1:直感的で反射的な思考・行動(例:靴を履く、会話をする)
- システム2:熟考や意識的な思考(例:やるべきかどうか考える)
気づきが行動に結びつかない理由の一つは、システム2がブレーキをかけているからです。
システム2は慎重で批判的、行動に移す前にじっくり考えさせようとするため、行動が遅れることがあります。
4. 「意識しないくらい小さなステップ」が鍵
システム2が反応する前に行動を促すためには、行動のハードルを限りなく低くすることが大事です。
そのためには、「意識しないくらい小さなステップ」を踏むことが重要です。
例えば、ブログを書くという目標があったとしても、最初に「1文だけ書く」「タイトルだけ決める」というように、最初の一歩を小さくしてしまうことで、システム2が干渉しにくくなります。
これが、行動に移しやすくするための工夫です。
5. 「とりあえずやってみよか」は響かない
「とりあえずやってみましょう」という言葉は、実はあまり効果的ではありません。
それは、相手が納得する理由をまだ持っていないからです。
納得していない段階で「やってみよう」と言われても、心の中では「やる理由がないな」と感じてしまうことが多いからです。
そのため、相手が自分で動きたくなる理由を見つけられるような場を作り、「共有する」ことで行動へのきっかけを作ることが大切です。
「一緒に試してみませんか?」というスタンスで、相手の背中を押すことが求められます。
6. 納得は“体験のあと”にしかやってこない
納得がやってくるのは、実際にやったあとです。
「やってみることで得られる実感」こそが、納得を生み出します。
「気づき」を得た時点ではまだ仮の状態であり、その後の体験を通じて初めて「これは本当にやって良かったんだ」と感じられるのです。
7. すぐにできないときはメモを取る
すぐに行動に移せない場合、メモを取ることが非常に効果的です。
気づきやアイデアをその場でメモしておくことで、後で思い出しやすくなり、行動に移しやすくなります。
特に、忙しい日々の中で思いついたアイデアを忘れないようにするためには、メモを取っておくことが一つの習慣になります。
このような習慣を身につけることで、気づきが**「後でやるためのきっかけ」**に変わり、実際に行動に移すステップに進みやすくなります。
8. まとめ
気づきが行動に結びつくためには、体験とセットであることが重要です。
そのためには、小さな一歩を踏み出すことから始め、相手が無意識に動けるような仕組みを作ることが大切です。
コーチングでは、動ける場を作り、相手が実感を伴って納得するプロセスをサポートすることが本質となります。